今、私の手元にウィルヘルム・バックハウスの1954年初来日時の日比谷公会堂におけるベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の実況録音CDがあります。共演は当時の東京交響楽団・指揮は上田 仁ですがまだ敗戦から立ち直る途上のオーケストラにとっては大変な名誉であるとともに20世紀の大ピアニストとの共演はプレッシャーはいかばかりかと推察されます。
もっともバックハウスはこれについて‘金管楽器は少し弱いが全体としては大変良い‘と語っています。当時70歳を過ぎたばかりの16歳でデビューして以来半世紀以上世界中の人々に感動を与え続けてきた大演奏家との共演は貴重な体験になったのではないかと思います。この5月3日の」コンサートの後、宮中でも演奏し、また高松宮の希望で開かれた「がん撲滅研究者支援のための」チャリティーコンサートは聴衆を深い感動で包んだようです。また、日比谷公会堂のコンサートのアンコールになんとショパンのエチュードOp.25-1「エオリアンハープ」を演奏したのですが、実はOp.25のエチュードは12曲全曲の録音を残しています。若いころはなかなかハンサムで俳優のディカプリオばりの写真が何枚か残っています。その頃は大変な技巧派で何と言っても弟子を取らないことで有名なダルベール(リストの高弟)のメガネにかなうような演奏でリストの名曲を弾きまくったようハンガリアン狂詩曲第2番などは今でも聞くことができます。また、ピアノ協奏曲の世界初録音に選ばれてグリークのピアノ協奏曲の一部を録音しています。1954年の来日公演から離れてしまいましたが、このときはブラームスの2番の協奏曲も演奏されたようですが、こちらのほうは残念ながら今は聞くことができませんがカール・ベームのウィーン・フィルの名演もありますのでCDでも聞くことができます。余談になりますが私の勤めていた音楽学校で前述の来日の折に公開講座を行ったと行くことで、ある高齢の女性の教授が私にあのときの講座は本当に良かったと話してくれたのを思い出します。1969年に最後のリサイタルを行った直後に倒れて一週間後に彼は亡くなっていますから、最後の最後までピアニストだったのですね。