1. ピアニストは楽器を選べない (Pianist can't choose an instrument)

東京には中小のホールにもスタンウェイのピアノが珍しくありませんが、残念ながら私の在住している神奈川県には大ホール以外にはそのようなところは数少ないのが現状です。20世紀の大ピアニストであるリヒテルはトラックにピアノを積んで地方の都市でコンサートを開くのを理想としていたようで、来日公演では必ず地方都市のホールでコンサートを入れていました。地方といってもあれほどの大ピアニストで当然ホールもスタンウェイのピアノが設置されているところが多かったとは思いますが、メンテナンスもそこそこのところもあったと思います。にもかかわらず後半生の何回かの来日公演では必ず地方都市でのコンサートを開催していたのを思い出します。昔の話になりますがブラームスは若いころはヴァイオリニストのレーメニやヨアヒムと随分と演奏旅行していたようです。調律されていないピアノがあったりあまり演奏会に向いていないところでのコンサートもたびたびではなかったのかと思います。

ピアニストたちはこの他の楽器にはない状況と面と向かわなくてはならないのが宿命なのです。鍵盤のタッチの加減や音の鳴り具合などが常にたちふさがっています。先に述べたリヒテルが初来日した時銀座のヤマハで当日コンサートに使うピアノと同じタイプのもので練習した時先輩に聞いた話ですが、なにか大変ぎこちなく弾いていたそうです。ところが夜になってコンサート本番では本当に素晴らしい演奏でびっくりしたよと話してくれたのを思い出します。恐らくリヒテルは短い試演で調整をしていたのでしょうね。