10. ピアノとチェンバロのお話し(The story of the piano and the harpsichord)

写真が下手ですみません。左のほうがグランドピアノのハンマーの部分で、右がチェンバロの爪のところです。奏者が鍵盤を叩くとピアノは下からハンマーが弦を叩き、チェンバロは爪が下に降りて弦をひっかくのです。つまりピアノは打楽器と同じでもう一方はギターと同じ撥弦楽器なんです。当然ひっかくだけの音量しか得られない楽器と打鍵をして強弱を得られるピアノでは表現力を比較することはできませんが、この二つの楽器の間に「クラヴィコード」のような打鍵に切り替わる中間の楽器もありました。

また、チェンバロは二段と一段の鍵盤のものがありますが、機能も音を出す仕組みも同じです。もっとも二段のものはフレームも頑丈にできていて強い共鳴にもある程度耐えられるようになっています。前にお話したバッハのブランデンブルク協奏曲第5番で華麗なテクニックを持ったこの曲を演奏した折は金銭的にもとても無理な楽器なので一段式のしかも家庭用の楽器を調達して演奏会に臨みましたが、共演者の方たちの支えもあって素晴らしい経験をさせてもらいました。しかし、第2楽章の単音の静かなメロディーは恐怖でした。というのも鍵盤を押してもなにせ細い弦をハンマーの代わりの小さな爪でひっかくだけなので音が出ない時があり弾く加減を大変必要としたことを思い出します。

これはラヴェルの「鏡」の中の「道化師の朝の歌」の冒頭の部分ですが、昔ヨーロッパから来日したお年寄りの先生にこの曲をレッスンを受けた際に最初に言われたことが、ギターのように鍵盤をはじきなさいと言われたときは何だか意味がわかりませんでした。そのうちだんだんと納得して行くのですが。

 

同じように18世紀のポルトガル宮廷で王女の教育にたずさわりながら現代でもキラキラした小品を数多く残してくれたバッハにも比すべき大作曲家ドメニコ・スカルラッティの有名なソナタの一節ですがまだピアノに切り替わる直前の楽器たちによったギターの奏法が色濃く見えるのがかえって新鮮に感じます。スカルラッティのソナタは本当に魅力的なので是非お試しくださいね。(ちなみにソナタの意味はじつは室内で演奏するための曲という意味で後年に現れるソナタ形式の楽曲とは違うものです。)